電池切れ、100%に戻す権利がある

気分:ここはトンネル……?

忙しい日々が慢性化した頃、たまたま仕事がキリよくすんなり終わり「あ、今日時間ある、何しよう」と思った時。

時間できそう、なにしようかな!あれ、、気になるお店どこだったっけ……最近なにスクショしたっけな……待って、浮かばない……そういえば最近なにかにテンション上がったっけ……。

突如、仕事以外の楽しみがなくなっていると気づいたこと、ありませんか?

目の前のことにただ必死だっただけなのに、顔をあげるとまるで暗闇。そして出口が見えない。

  

症状:気分が晴れない、とつぜんの空虚

食べに行きたいレストランや読みたい本、見たい景色、新作コスメ……ふだんならパッと浮かぶ生活の彩りが出てこない時。

自分を楽しませる術がすぐに出てこないのは、知らず知らずのうちに気持ちがすり減っている状態です。

プロジェクトの佳境や重要クライアントへのプレゼンなど目の前のことに精いっぱいな日々が続くと、最中では気を張ってこなしていても、メンタルはどんどん消耗。

そして気を遣ったりアウトプットが続いたりすると、MPはみるみる減っていきます。

ひと息つくタイミングが遠ければ遠いほど、トンネルが長ければ長いほど、ふと立ち止まった時に「あれ、今どこにいるんだっけ、、」と気づいた時は、時すでに非常ベルが鳴り出す一歩手前。

人が病む原因は激務ではなく、どこへ向かっているかわからない状態だといわれていますが、まさにドキッとする瞬間です。

  

解決策:空洞は満たさなくちゃ

多忙の渦中には意識していなかったのにふと足を止めたらそこは踊り場だった時の戸惑いと焦りといったら。

だれにもじゃまされずに自分の好きにしていいのに、レストランもスイーツも、リップもホテルも浮かばない……。

そんな時の解決策は、たまねぎの皮を剥ぐように自分の本音に迫ることができる環境に身を置いてみること。

そんな舞台にもってこいなのが、「黒」と「一流」が掛け合わされたホテルです。

黒は光の相対。静寂に加え、厳粛や高尚を感じられる色です。刺激溢れる外界ではなく、今の自分に目を向けて、内省する時間を得るのに最適。

ホテルは数多あれど、建築やインテリアなど世界観が細部まで徹底された一流の仕事に触れられるのがラグジュアリーホテルの醍醐味。相対的に、自分の志向がクリアになる作用もあります。

  

集中して充電できる空間がある

「黒」と「一流」を掛け合わせた空間として真っ先に挙げたいのが、『アマン東京』。

東京のみならず日本でも屈指のラグジュアリーシティホテルです。

アマンの建築を多く手がけた建築家の巨匠、ケリー・ヒルが手がけ、アマン創業者であるエイドリアン・ゼッカの熱意のもと、世界で初めてのアマンの本格的都市型ホテルとして2014年に開業しました。

大手町駅直結の38階建てビル「大手町タワー」の33〜38階に位置。フロントのある33階は、30mもの吹き抜けになっています。白の壁が吸い込まれそうなほど高く続いています。

一方で、プールや大浴場は黒が基調。客室は木や石をふんだんに用いられており、日本の伝統美が光るしつらえ。

パブリックスパースとプライベート空間とのコントラストを鮮やかに感じるホテルです。

トップクラスのラグジュアリーホテルとして世界ですでにその地位を確立しているアマン、ディテールへのこだわりが随所に感じられるものの、一見して豪華絢爛に終始しているわけではないところにその美学が匂い立っています。

だからこそ、ただ単純にラグジュアリーホテルステイを楽しむというよりも、「この一流の場所で過ごして自分はこの先どこへ向かっていきたいのか」と自身の美学を自問する場になりうると感じました。

  

整然と、美学が鎮座する客室

開放的なロビーから客室の並ぶフロアへ移動すると、一転してシンプルな空間に変化していることに気づきます。

『アマン東京』の特筆すべき特徴は、客室の広さ。

スタンダードな客室(デラックスルーム)でも、71平米もの広さを誇ります。標準客室でこの広さを備えるホテルは都内では見当たりません。類似の外資ラグジュアリー系ホテルでも、スタンダード客室の広さは40〜50平米が主流です。

この広さや配置を見ると、アマンがいかに滞在中のゲストの心地よさを考え尽くして設計したか、アマンが掲げるコンセプトを感じられます。

ベッドは中央に配されているものの、空間を占拠するにはあまりに部屋が広く、縁側をイメージしたスペースがダウンリビングのような趣きで窓際に誂えられています。

THE東京を望む景色が眼前に広がり、こんなにゆったりとした空間をひとり占めしながら東京の中心でくつろげることに、高鳴りを抑えることはできません。こんな機会、富豪でないかぎり滅多にないことでは、、!

客室は、木と石が主体。全体的なトーンはシックにまとめられているなかに、温もりと生気が感じられます。

シンク周りとバスルームは、黒で統一。重厚感があり落ち着いた物腰になっているのは、石にツヤがなく温度さえ感じるようなテクスチャーだから。

バスタブは、外が望めるビューバスタイプ。広すぎず狭すぎない、深すぎず浅すぎない、明るすぎず暗すぎない、白すぎず黒すぎない、あらゆる側面で絶妙です。まさに考え事に耽るために設計されたと思わされる仕様。思考を深める空間としてこれ以上ないのでは、と感嘆の域です。

 

まず向かうは、解放へいざなうプール

アマンがシティラグジュアリー第1号としてつくったこの東京のホテルでは、随所にアマンのポリシーと哲学、ローカルとの融合や地域へのリスペクトを感じます。

なかでも感動を覚えるのが、プール。

東京千代田区大手町に、これほど天井が高く、景色も明るさも望める二面採光で、太陽の光も夜のとばりもまるで何も隔てるものがないかのように感じられるプールをつくったことにただただ拍手をおくりたい、そんな場所です。

天井高は8m以上、プールの長さは30mと、プールの規模も都内最大級。

プールのないラグジュアリーホテルは東京でも少なくありませんが、意志を持ってこの建てつけで構えたアマンには、ホスピタリティの覚悟を感じます。

プールの中ではスマホと無縁。暇に耐えられない現代人は信号待ちの数秒でさえスマホに手を伸ばしてしまいますが、プールは物理的にスマホとの距離をとれる場所。

水のなかで重力から解放され、軽くなったからだでもくもくと泳ぐと、雑念からも解放されます。

開放的な空間で一旦肩の力を抜き、まずは身軽な感覚を取り戻すこと、この作業にうってつけなのがプールです。

日常の延長で素敵な空間に来ると、思考も認識も日常の癖を持ち込みがち。

都内有数の広さのホテルプールで、まずは日常を水に溶かす時間を持つ、それが、からからに渇いてしまった状態に何を取り込みたいかを考えるためのホテルステイのはじまりとしては必要なアクションです。

 

のびのび泳ぎ、しみじみ考える

雑念を振り払ったら、大浴場へ。

浴槽も床も、プールに続きこちらも全体が黒で統一されています。静寂と相まって、一瞬闇を感じるほどの黒さです。

造りはシンプルで、浴槽とシャワーブースとスチームサウナのみ。スチームサウナは、スウェーデンとフィンランドの老舗サウナメーカー・TYLOHELO製です。

スチームサウナは、1m先も見えないような霧に包まれた気分になる不思議な空間。物理的に視界も情報へのアクセスも遮断された環境では、自ずと見つめる先は自分自身に。

まとまった時間をとって考えたいことを考えるのに最適な環境といえます。

黒と暗がりはふしぎなほど気持ちの安定をもたらし、思いを巡らすのに邪念の湧く余地もなく、集中して思考の断捨離が叶います。

  

インルームディナーこそ特権

『アマン東京』には食事ができる場所が2か所ありますが、食事はぜひ客室で。

なぜなら、都心でこの広さを貸し切って過ごせる機会はないからです。

ほかのホテルでは、スイートルームクラスでない限りはゆったり食事できるスペースを客室内に有していることはほぼないため、客室が広い『アマン東京』こそ、客室で長い時間を過ごす価値があります。

レストランの窓側席のように窓のすぐ近くという特等席で、自分たちだけの1卓のみ、喧騒もなく、好きな音楽だけに包まれて静かに、急き立てることなく自分たちのペースで食事できる、というのはそうそうないこと。

 

からだをほぐし、からだにやさしい状態をつくる

お腹を満たしたら、眠りにつく前に再び、お湯へ。大浴場へ行くも、ビューバスでしみじみひとりで温まるもよし。選択肢があることがうれしい。

入浴やサウナは、からだを温めます。筋肉の緊張をほぐすにとどまらず、安眠や前向きな気持ちをもたらす効果も。

なにより「あ〜〜〜きもちいい〜〜〜」とのびのび全身を伸ばせることが、からだをいたわり、思考を深める準備運動に。

「何もやる気が起きない……」と思ったら、実はからだががちがちに凝っていたから、というのはよくあることです。

何をするにもまずはからだをほぐすことから。

お風呂上がりには、“縁側”でひと涼み。窓の外に広がるのは大手町のため、ビルの灯りは消え、いわゆる夜景の迫力には欠けますが、眠る東京を目にするこちらも貴重な時間となります。

    

朝食は日光とともに

客室は天井高たっぷり。窓辺からはこぼればかりの朝日が縁側風のテーブルへと降り注ぎます。

すっぴんパジャマと究極の脱力スタイルで味わうも、朝湯からのメイクアップからのワンピースで朝食と共に写真におさまるも、どちらも自由。“こうあるべき”から羽ばたいて謳歌できるひとときは、そうでない事態に耐えるつっかえ棒になります。

 

収束と開放により、本質を問う時間がここに

客室は余計な物や現実感のある物が排され、華美な装飾やアートもなく、鎮静すら感じられるほど。「部屋と頭の整理加減は比例する」といわれる通り、ミニマルな客室にいると頭のなかもシンプルに。

次から次へと思考の渦に溺れるというよりは、「今自分が考えるべきこと」にフォーカスしてピンポイントで深めるタイプの思考時間に最適でした。

一方で、贅沢なまでに物理的な距離がとられた空間ながらも黒の色効果により深遠な静かさが広がるプールや大浴場では、静的な開放が感じられます。

思考するための緩まりを連れてきてくれる開放感。

この収束と開放のバランスとが、ホテル全体を通して行き来できる体験は、ラグジュアリーホテル広しといえど稀有。

確かなラグジュアリーはまるで、「自分のこだわりや信念、美学とは」を反射する鏡。

電池切れには充電が必要。愚痴のひとつも出ようがない空間にいると、充電開始地点の標高は自然と上がります。整っているだけでなく、一流の仕事に溢れているからこそ、充電と深掘が叶う時間に。

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