サンセバスチャン_美食ホッピングリゾート

大人が楽しいグルメリゾート

サンセバスチャンとの出会いは20代なかば。前途洋々と前途多難とを同時に抱えた時期の小休止の長旅で、偶然訪れた街がサンセバスチャンでした。当時あふれる体力に身をまかせ、次から次へとバルをはしごしては大笑いして過ごした一夜のことが、ずっと忘れられませんでした。

その夜が明けた次の日、サンセバスチャンで最も由緒ある高級ホテルを見上げながら、「次は好きな人と来てこのホテルに泊まれますように」と願ったことも、ずっとずっと何年も心の片隅にありました。

長年心をとらえて離さなかったサンセバスチャンをついに再訪できたので、その経験をもとにサンセバスチャンになぜ行くべきかを勝手にプレゼンしていきます。

そんな個人的な思いを抜きにしても、おとなだから楽しめる食文化が街のすみずみまで浸透している街・サンセバスチャンは、究極のグルメ融合型リゾートなのです。

アクセス

数年前、イベリア航空が成田~マドリッド間に復活しましたが、それ以外の航空会社や都市には直行便が飛んでいない国・スペイン。バルセロナですら日本からは乗継ぎが必要です。

サンセバスチャンともなるとヨーロッパのほかの都市からも飛んでおらず、マドリッドかバルセロナから国内線が飛んでいるだけ。北部を代表する都市・ビルバオへは国際線も発着しているため、サンセバスチャンへのアクセスにビルバオ空港を利用する人も多いです。列車やバスは、マドリッドやバルセロナなど多くの都市からサンセバスチャン直通が運行されています。

私がサンセバスチャンに行った時は、1度目はマドリッドからビルバオ経由のバス利用、2度目はバルセロナからのLCC利用でした。

せっかくスペイン北部へ行くなら、グッゲンハイム美術館などがあるアートの街・ビルバオも併せて巡りたいという人は、ビルバオ利用がおすすめ。

サンセバスチャンへピンポイントで行きたい場合は、日本からだと乗継ぎが2回以上必要になるので、マドリッドまたはバルセロナと併せて訪れるのが効率的です。

サンセバスチャン観光に必要な日数はというと、初めて行くなら丸3日あれば充分。街自体は世田谷区ほど、バルが密集する旧市街は1日あれば縦横無尽に歩き回れる広さです。

どんな風に過ごせるの?

【When】いつ行く?

ヨーロッパ旅行は5-6月か9月を断然おすすめ。理由は気候の良さ・日の長さ・旅費のリーズナブルさの3点が全て揃っているから。

とはいえサンセバスチャンについては、できれば7月か9月前半を狙いたいところ。というのも、サンセバスチャンの緯度は43度、日本では札幌と同じです。つまり5月や6月はまだ肌寒い時期。平均気温は、5月が15度、6月は18度、7・8月は21度、9月が20度です。

私が行ったゴールデンウィーク(4月最終週)は、半袖なんてとんでもない!という寒さでした。日中でも厚手のパーカーは必須、夜はその上にさらに薄手のジャンパーのようなものを羽織ってバル巡りをしました。4月はあまりにも寒く、リゾート感はあまり味わえない気候でした。

GW、日中でも薄手の長袖ワンピースはぎりぎりでした。風が強いとアウトです。

7月か9月なら、7月の方がよりおすすめ。日照時間が7月は15時間、9月は13時間と、2時間ほど7月の方が長いからです。7月は夜21時半頃まで明るく、薄暮のなかでバル巡りを楽しめるのは日本ではできない経験です。7-9月はビーチで日光浴ができるのも◎。

4/28の日の入りは21時過ぎ。サンセバスチャンで日の入りが21時過ぎなのは4月後半から8月半ばまでのわずか4か月あまり。21時半頃まで明るいうちからバルで飲み歩けるので得した気分になります。

【Where】どこへ行く?

旧市街のバルとコンチャ湾のビーチ、この2つをおさえればサンセバスチャン滞在の目的は充分。

フランス国境までバスや鉄道で30分ほどなので、ちょっと足をのばせばフレンチバスクを楽しむことができます。国際空港から遠い場所までせっかく来たからには、スペインのバスクとは言語や雰囲気が異なるフレンチバスクも訪れてみるのはおすすめです。

スペインバスクのオンダリビアから海を渡ること5分でフレンチバスクのアンダイエに

【What】何する?

サンセバスチャンはとにかく食。特にバル!

街中のバルですら、クオリティが異様に高いです。皿上の芸術がそこかしこに溢れていて、目の前にあったからふらっと入ったバルで感動することがしばしば。

サンセバスチャンは、世界的に有名な美食の街。人口あたりのミシュラン星獲得店数が世界一なことから、「世界一の美食の街」と称されることも。

もともとサンセバスチャンには美食倶楽部という男性の社交場が存在していて、食の共有や切磋琢磨が日常的だったそう。1970年代にフランスで起こったフランス料理革命に影響をうけたバスク地方の若手シェフたちがレシピを共有し合うことで街全体の食レベルが上がっていき食の発展に大いに寄与したと言われています。

サンセバスチャンの面積は約60平方キロメートル、世田谷区(58平方キロメートル)とほぼ同じ。人口はサンセバスチャンが18万人、世田谷区が94万人なのでわずか5 分の1。18万人は渋谷区や港区の人口よりやや少ないぐらいです。街の規模の小ささがわかりますよね。

この街に、ミシュランの3つ星が2店、1つ星が4店、ビブグルマンが2店あります(2020年版)。美食を求めて訪れる人が年々増え、街全体の食がどんどん進化する好循環となっています。

ミシュランに掲載されるようなレストランがおいしいのは当然ですが、サンセバスチャンは街中のバルがおいしいというのが最大のポイント。バルなので、ピンチョスやタパスが1皿2~5ユーロ。300~600円ぐらいで楽しめるんです。

しかも私がいちばんいいなと思うのが、1杯1皿でさっと出るということが文化として定着していること。おいしければ2皿3皿と注文するのももちろんOKだし、バルでも着席して次から次へと食べて飲んでももちろん可能。

自分の好み、食べたいメニュー、お腹具合、雰囲気を照らし合わせて、自分好みにバルステイをアレンジできるのが気楽でした。お店側もさくっと過ごしてさくっと出ていくことをあたりまえととらえています。

ホテルのコンシェルジュにも「いろんなバルをまわって好きなところを見つけてね」と言われるなど、バルのはしごが街全体で奨励されているのです(その方が地域が潤うため)。

気分的にもお財布的にも雰囲気的にもこの気軽さを兼ね備えたカルチャー、アジアの屋台に近い感覚をおぼえました。

誰にも気兼ねなくはしごができると、単純に訪問できるバルの数も増える!

あるバルでは1時間、あるバルでは10分、というように滞在時間を気にせず気ままに過ごせるし、「あのお店のあのタパスがおいしかったからやっぱり戻ろう」というのもしやすいし、“来る者拒まず去る者追わず”な雰囲気が観光客にはとても居心地がよかったです。

【Who】誰と行く?

言うまでもなく、おいしいものが好きな人とぜひ。

ひとり旅よりはふたりがよいかなと思います。なぜなら「おいしいね」と言い合えるのと、食べられる種類が増えるのと。バスク産の微発泡ワイン・チャコリを飲んでその店の名物ピンチョスをひょいっと食べて顔を見合わせながら「おいしいいいいい」と言い合える人が横にいると単純に楽しい。

食の思い出は好きな人と共有することで色濃く記憶に残っていくんですよね。「あの時の生ハムとろけすぎだったよねえ」「その次に行ったお店のフォアグラも最高じゃなかった?」なんて会話を、当日も翌日も帰国後も3年後も話せるの、至福です。

旅の思い出って、あとあとまでずっとリサイクル可能。物は手放すことがあっても思い出は消えないので、ことグルメに関しては一緒に楽しめる人と時間を共有するのはおすすめ。

【Why】サンセバスチャンを選ぶ理由は?

サンセバスチャン、街自体は小さいし、国際線でのアクセスはできないし、日本から行くのは正直なところ不便な場所です。

それでも2度訪れて、できれば毎年訪れたい、というか毎夏を過ごすサマーハウスが欲しい…と思うぐらいに好きな街。

どんなところがサンセバスチャンならではの魅力なのかと考えてみると……

  • さくっとでもはしごでも、バル巡りが楽しい
  • ビーチと旧市街が同じようにアクセスできる
  • 観光地だけど地元の人の生活が感じられる
  • 街だけど海があってリゾート感がある
  • スペインだけどスペインではないバスクの文化がある

今は一大観光地なのですが、それでも大都市とは違う観光地化されすぎていない雰囲気が漂っていることが大きいです。

私は旅に内的効果と外的効果を求めているのですが、外的効果として「世界の日常をのぞける」ことがもはや旅の目的になっていてライフワーク化しています。

サンセバスチャンは、ショーとしてのグルメではなく、食を愛する人たちの暮らしの延長に今の姿があり、結果的に世界中の人を惹きつけている街。だから大きい城や世界遺産がなくても、逆にそれらがないことが魅力なんですよね。

観光客が毎日毎日ひっきりなしに訪れる一方で、地元の常連も通うというバル、日常ののぞき見にはこれ以上ない場といえます。

また、バスク地方は独立運動がしばしば起こるほどに、バスクへの誇りが強い地域です。

バスク語はヨーロッパながらほかの言語と関連を持たない孤立した言語といわれ、ラ・リーガ1部のサッカーチーム「アスレティック・ビルバオ」はバスク人のみが所属できるなど、さまざまな面で独特の文化を築いています。

だからこそ、バルセロナやアンダルシアとは全く異なるスペインを感じることができるのもサンセバスチャンならでは。

【How】どう楽しむ?

サンセバスチャンまで遠路はるばる向かうにあたって、メインの目的はやっぱり「食」。

とはいえ食が目的の旅行で悩ましいのが、胃袋キャパシティ問題。1食、1日で食べられる量にはどうがんばっても限界があり、もっと食べたい食べ尽くしたい…という思いとは裏腹に泣く泣くあきらめていく品がどうしたって出てきてしまいます。

ゆえに3夜過ごすことをおすすめ。

今回も目的は絶対的に「バル巡り」だったので、1日目の夕方にバルセロナから到着、3連泊して4日目の19時過ぎに夜行列車に乗ってリスボンへ向かうという72時間滞在にして、10食は確保できるようにしました。3日3晩過ごしたけれど、それでももっと行きたいバルやレストランがありました。

バル巡りを楽しく安全に楽しむために重要な要素が、ホテルの立地です。

バルが集中している旧市街にはホテルがほとんどありません。バルへのアクセスを最優先してどうしても旧市街に泊まりたい場合は、アパートメントならOTAにも多数出てきます。

私はもともと初めて来た字に「次回はここに泊まるんだ」と決めていたホテルがあったので、そちらへ滞在。(ホテル記事はこちら

ビーチが目の前、旧市街へ徒歩10分圏内、駅やスーパーへも徒歩数分、と立地も素晴らしく、内装も素晴らしく、サンセバスチャンでホテルステイも求めるなら私はこのホテルを断然推すし、次回もここに泊まりたいなと思っています。

今回も次回もサンセバスチャン滞在は、朝はのんびり→昼からバル→午後はビーチでのんびりや街歩き→夕方からバル巡り→バスクチーズケーキで締め、という1日の流れをあたかも日常の週末かのように過ごすのが最適では、と思います。

他のヨーロッパシティとどう違うの?

サンセバスチャンは地理的にも歴史的にも独特のため、似たような街は今のところ出会ってないなと思います。もしかしたら、能登半島とか下田とかそういう海辺で地産の食材が豊富な街に近いのかもしれません。

世界遺産など観光資源がないと思われた街が、人々の英知でここまで街おこしされ、それがカルチャーとなって根づくことが素晴らしすぎます。日本の地方創生のヒントもここにある気が。

ビーチがあり旧市街が残るという点でバルセロナ、リスボンと近いのですが、やっぱり街の規模がぜんぜん違います。バルセロナは見どころが多すぎて食だけに時間を割きづらい街だけど、サンセバスチャンは堂々と後悔なく食にフォーカスできます。

この小ささで、良い意味で城もランドマークも世界遺産もないからこそ、食と景色に集中してのんびりできるという過ごし方が叶う街だなと。

結論:おいしくて満たされる美食リゾート

サンセバスチャンは、大人の楽しさが存分に詰まったグルメとビーチを備えたリゾートです。美食尽くし、美食はしごが“気軽に”叶う、まさに「美食ホッピングリゾート」。

世界37か国をまわってきたなかで感じるサンセバスチャンの特徴は、「食とカルチャーとリラックスが高いレベルでミックスされた街」であること。気兼ねせず緊張せず衝撃的においしい芸術を食べながら、ビーチやオーシャンビュー客室ではのんびり、というシティとリゾートのおいしいところどりが叶う街です。

これはかなり希少……!

お酒を飲みながらおいしいものをすこしずつ味わう大人の時間を、日本から遠く離れたヨーロッパの小さな街で味わう体験は贅沢。「大人って最高だな」としみじみ思える街です。

普段のがんばりに対しおいしいものでチャージするタイプの人に特におすすめ。自分への慰労効果がとてつもなく高く、わざわざ日本からはるばる行く価値あり、と言えます。

別記事にて、実際に私が過ごした旅ログホテルについてまとめています。